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さっきより少しだけ大きめの声で、僕は彼に呼びかけた。
返事はない。
「四谷、琉聖」
フルネームで呼び直すと、ぴくっと肩が動いた。
「訳、次の次、当たるよ」
用件だけ伝えて、僕は授業に戻るつもりだった。彼の次には、隣の席の自分が当たるかもしれない。一応、訳を確認しておきたかった。
「ん……、」
身動ぎして、腕で作った輪の中から顔を上げる。彼の表情は、大変不機嫌そうだった。
怖い、と言ってもいいくらいだったのだけれど。
おそらく、腕が当たっていたのだろう。
額の左の方がうっすらと赤くなっていて、その不注意さが、まるでこどもみたいで。僕は微かに笑ってしまった。
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