第八話 感触

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「今お前、何て言った?」 「え、だから告白されたんだよ、この俺が。」 高校最初の夏、岸は何も前触れもなくそう言った。 俺は知っている。岸ははっきり言われないと告白だと気づかない鈍感頭だということを。 だいたい、俺に話しかけてくる女子半分以上がお前のことだかんな。 まあ、どうでもいいんだけど。 「へえ、良かったじゃん。どんな感じの子?」 「かわいいよ、背とかこんなに小さいんだよ。」 岸はそう言いながら、そこにまるで女子がいるかのように、やさしく手をかざして見せた。 俺がもし、お前より20cmくらい小さい女の子だったら、お前はそういう顔をして手を俺にもかざしてくれるのだろうか。 俺は、どう転んでも、どうあがいても、男なんだよな。 「じゃあな。それ捨てといてやるよ。貸せよ。」 少し後ろで歩いていた岸に俺は手を差し出した。 岸は空のペットボトルをそっと俺に渡そうとして、動きを止めた。 「やっぱりさ、澤ちゃんの家、行っていい?」 「え。あ、うん。いいよ。じゃあ道こっちだな、来いよ。」 岸は帰りに本屋に寄ると言っていた。 何の本を買おうとしていたのか、それも気になるがとりあえずこれからの岸の予定は俺で埋めることができた。 「澤ちゃんはその……いう…って……よね。」 ん?いきなりフリーズしたのか?全然聞こえないぞ。 「お前さ、今日ちょっと声小さくないか。」 少し驚いた表情でこちらに顔を向けた岸の頬が少し赤くなっていた。 不覚にも触りたい衝動に駆られた。 「何か、ほっぺたに何かついてるぞ。」 嘘だ、これは嘘だ。 道端で何やろうとしてるんだ、俺は。 「ちょ…」 頬に触れようとした手を、岸が弱々しくはたき返してきた。 「澤ちゃん、ちょっと鈍感過ぎない?!」 岸の顔が明らかに赤くなっているのがわかった。 照れているのか、それともこれは怒っているのか。 「何だよ、せっかく取ってやったのに。ほら、睫毛だよ。」 俺は少し強引に岸の頬に触れた。 そして、たまたま見つけた幸運を生かせることに成功した。 長くて目立つんだよな、岸の睫毛って。 「澤ちゃんって、釣った魚に大量に餌与えるタイプなんだ。」 何を言っているのかしら、この可愛い子は。
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