第八話 感触

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「痛いよ…澤ちゃん。」 「ちょっと黙ってろ。」 「…うん。」 岸の耳の下の皮膚の体温が、俺の頬をやさしく温める。 なんだ、お前の方が甘い匂いするじゃん。鼻詰まっててもわかるよ。 顔が見たくて少し力を緩めたが、もう少しこの感触を味わいたくなったので、俺は再び岸の体をぎゅっと抱きしめた。 「え。」 「何だよ。」 「……れるかと思った。」 だからお前今日声小さいんだって。いや、この場合は俺のせいか。 「聞こえない。」 俺にできる渾身の優しい声で岸に問いかけた。 「キス…されるかと思った。ふう。」 少し息を漏らし、岸が俺の胸に顔を埋める。こんな可愛い動物、いるんだな。 「しねーよ。」 さっきよりも強く岸を抱き寄せる。岸の息が俺の息に重なるように。 「しないんだ。」 お前は俺のこと、そういうつもりで見てないんだろ。 俺はもう、お前のことが、好きなんだよ。 そう、好きなんだ、これはもう、好きってことなんだ。 「ちゃんと段取り踏むってわけですか、澤さん。」 「何だよ、いきなり他人行儀な。」 「だって、いつもの澤ちゃんと違うもん。」 「同じだよ、いつもと。」 すると、岸は少し顔を俺の方に向けた。俺の耳に岸の息が吹きかかる。 「してくれるの?」 「キスはしねーよ、今はな。」 本当はしたくてたまらない。早くお前の唇の温度を知りたい。 「違うって。キスじゃなくて、告白だよ。」 「は?」 「告白して、愛する人にキスをする。そういうことでしょ?」 段取りってそういう意味か。 でも、俺はそうだとしてもお前は俺のことなんて… 「俺はもう言ったじゃん。」 「ん?何を?」 「だから…」 岸は俺の耳を少しだけ噛み、それはもう儚くか細い声で、 「さっき言ったじゃん。 “俺は澤ちゃんをそう言う目で見てんだよ”って。」 と、そっと囁いた。 俺は今、お前が耳を噛んでくれるこの距離で、お前を強く抱き締めることができている。 ああ、俺、男で良かったかも。 to be continued...
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