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「痛いよ…澤ちゃん。」
「ちょっと黙ってろ。」
「…うん。」
岸の耳の下の皮膚の体温が、俺の頬をやさしく温める。
なんだ、お前の方が甘い匂いするじゃん。鼻詰まっててもわかるよ。
顔が見たくて少し力を緩めたが、もう少しこの感触を味わいたくなったので、俺は再び岸の体をぎゅっと抱きしめた。
「え。」
「何だよ。」
「……れるかと思った。」
だからお前今日声小さいんだって。いや、この場合は俺のせいか。
「聞こえない。」
俺にできる渾身の優しい声で岸に問いかけた。
「キス…されるかと思った。ふう。」
少し息を漏らし、岸が俺の胸に顔を埋める。こんな可愛い動物、いるんだな。
「しねーよ。」
さっきよりも強く岸を抱き寄せる。岸の息が俺の息に重なるように。
「しないんだ。」
お前は俺のこと、そういうつもりで見てないんだろ。
俺はもう、お前のことが、好きなんだよ。
そう、好きなんだ、これはもう、好きってことなんだ。
「ちゃんと段取り踏むってわけですか、澤さん。」
「何だよ、いきなり他人行儀な。」
「だって、いつもの澤ちゃんと違うもん。」
「同じだよ、いつもと。」
すると、岸は少し顔を俺の方に向けた。俺の耳に岸の息が吹きかかる。
「してくれるの?」
「キスはしねーよ、今はな。」
本当はしたくてたまらない。早くお前の唇の温度を知りたい。
「違うって。キスじゃなくて、告白だよ。」
「は?」
「告白して、愛する人にキスをする。そういうことでしょ?」
段取りってそういう意味か。
でも、俺はそうだとしてもお前は俺のことなんて…
「俺はもう言ったじゃん。」
「ん?何を?」
「だから…」
岸は俺の耳を少しだけ噛み、それはもう儚くか細い声で、
「さっき言ったじゃん。
“俺は澤ちゃんをそう言う目で見てんだよ”って。」
と、そっと囁いた。
俺は今、お前が耳を噛んでくれるこの距離で、お前を強く抱き締めることができている。
ああ、俺、男で良かったかも。
to be continued...
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