乾いた身体を潤して

30/39
前へ
/39ページ
次へ
  身近な男に本気で 心を込めて口説かれて、 無関心でいられるはずがない。 志緒は、そういう女だ。 ……だからこそ俺は、 他の男を近付けさせなかった。 想像しただけで、 胸の奥がじんわりと痛くなる。 ここにある現実が そうでなくてよかったという リアルな安堵とフェイクの痛みが 入り混じり、喉が締まる。 「お前と志緒のヌルい9年が、 俺にあればな。 ……心の底から恨むぞ、誠司」 ──本当に恨んでやしない。 こんな状況でも、 こんな話をしていても、 やっぱり誠司は俺にとっては たった一人の弟で。 誠司の嘘に傷付いて 怒りを覚えつつも、 気付いてやれなくて 申し訳なかったという 罪悪感が沁み出してくる。 これだから長男ってのは、 救われない。 .
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1180人が本棚に入れています
本棚に追加