乾いた身体を潤して

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  溜め息混じりに 諭すように語りかけ── ふと、章子の笑顔を思い出す。 大人になっても 厭らしいところのない、 気立てのいい女に成長していた。 あいつが昔から誠司だけを 見ていたことを、 俺はこっそり知っている。 「弟を追い詰める趣味はねえがな。 お前はとにかく、 昔から視野が狭すぎる。 少しは自分のことを 考えてみたらどうなんだ」 『自分のこと……?』 「俺がどうだとか、 志緒がどうだとか…… そんなことにばかり 振り回されてきたから、 肝心の自分自身がお粗末なんだろ」 『……』 ごくり、と 誠司が息を呑むのが聴こえた。 .
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