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「話?」
「はい。
春海様と瞳子さんは、どのように親しくなったのか、お聞きしたいです」
ためらいながらもそう尋ねると、春海は小さく息をついて、手にしている原稿用紙を持ち上げた。
「これだよ」
「これと申しますと?」
「下手の横好きで、文学を嗜んでいてね」
ぎこちなくそう言う彼に、千花子の胸がドキドキと高鳴った。
「人に読ませられるような代物ではないんだが、書いた以上は『誰かに読んでもらいたい』と思うのは、物書きの本能なのかもしれない」
独り言のようにそう漏らす。
「……お書きになった小説を瞳子さんに?」
「偶然だったんだ。
置き忘れた原稿がなくなっていて、探していたら、いつの間にか部屋の机の上にあってね。
読んだ感想の手紙が置かれていたんだよ。
それが誰が書いた手紙なのか分からずに、人に問うていたら、それが瞳子だということが分かった」
『瞳子』とその名を呼び捨てたことに、今度は胸が痛んだ。
分かりやすい嫉妬だ。
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