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いい子ぶりながら、格好をつけながら、彼があの子を呼び捨てにしただけで、胸が痛むなんて。
きっと、瞳子さんが書いた感想は、春海様の胸に響いたのだろう。
「――それから、書いたものを彼女に読んでもらうようになった。
彼女は感想をいつも綺麗な字で書いて来てくれる。
いつしか僕は、彼女の為だけに、物語を綴るようになったんだ」
決定的に斬り付けられた気がした。
一刀両断だ。
立ち入れない、二人の仲。
そんなのは、もう分かっていたこと。
千花子は気付かれぬように目に浮かんだ涙を指先で拭い、
「そう……ですか。
私も読書が本当に好きで。もし許されるなら、私も春海様の書いたものを読んでみたかったです」
遠くを見つめながら、ポツリと漏らした。
春海は一瞬戸惑ったような表情を見せ、
「僕が書き上げたものは、ピアノのある部屋の棚に積んでいる」
それだけ言って、千花子に背を向けた。
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