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――ほら、見て御覧、千花子。
あそこにいる凜々しい少年が、お前の旦那様になってくれる人だよ。
それは私がまだ、十歳の頃。
まだ幼い私も、華族の令嬢として宮家主催のパーティに参加していて、その席でのときのことだった。
華やかな場で、皆の視線をさらっていたのはピアノを弾く美少年。
彼を遠巻きに眺めながら、父は静かにそう告げた。
「お前の許嫁だよ」と。
名前は、在原春海(ありわら はるうみ)。
親同士が決めた政略結婚の相手で、私より五つ年上の十五歳。
美しい黒髪に、綺麗な顔立ち。
親が決めた婚約者。
それでも、まるで絵巻で出てきそうな少年の美しさに、幼い私は一目で恋に落ちたのでした。
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