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私は十歳の時に、その婚約者である春海さんを見掛けて、すぐに恋に落ち、
それから、五年の月日が経過して、私は十五になっていた。
春海様のことは、その後、一度もお目にかかれてはいないのだけど、私の気持ちは変わることがないまま。
恋に落ちたままだった。
あと一年で、あの方の妻になれるのかと思うと、日一日が長く感じられて仕方ない。
「――痛ッ」
惚けながら裁縫をしていた千花子は、指先に針が刺さったことで、我に返って顔をしかめた。
白い人差し指の先から、ぷくりと血が滲んでいる。
千花子は、ふぅ、と息をついて、指先をハンカチで押さえて、教室内を見回した。
まるで応接室のような洋風木造建築の中、綺麗な黒板と、学習机が規則正しく並んでいる。
午後の日差しが教室を眩しく照らしていた。
ここは千花子が学んでいる女学校。裁縫の時間だった。
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