第一章 許嫁

5/29
前へ
/297ページ
次へ
私は十歳の時に、その婚約者である春海さんを見掛けて、すぐに恋に落ち、 それから、五年の月日が経過して、私は十五になっていた。 春海様のことは、その後、一度もお目にかかれてはいないのだけど、私の気持ちは変わることがないまま。 恋に落ちたままだった。 あと一年で、あの方の妻になれるのかと思うと、日一日が長く感じられて仕方ない。 「――痛ッ」 惚けながら裁縫をしていた千花子は、指先に針が刺さったことで、我に返って顔をしかめた。 白い人差し指の先から、ぷくりと血が滲んでいる。 千花子は、ふぅ、と息をついて、指先をハンカチで押さえて、教室内を見回した。 まるで応接室のような洋風木造建築の中、綺麗な黒板と、学習机が規則正しく並んでいる。 午後の日差しが教室を眩しく照らしていた。 ここは千花子が学んでいる女学校。裁縫の時間だった。
/297ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10377人が本棚に入れています
本棚に追加