第一章 許嫁

6/29
前へ
/297ページ
次へ
「もう、千花子さまったら、またボーッとしてる。また、自分がお嫁に行く日のことを考えていたんでしょう」 隣に座る友人が、にんまりと笑って、千花子の顔を覗いた。 瞬時に赤くなる千花子に、皆は微笑ましさを感じて、クスクスと笑った。 「でも、私ならとても耐えられないわ」 息をつくようにして言った友人に、「えっ?」と千花子が小首を傾げると、 「親の決めた相手と結婚しなきゃならないなんて。政略結婚なんて、今のこのハイカラな時代にナンセンスだと思わなくて? もう、デモクラシーの世なんですのよ」 と力説する彼女に、話を聞いていた他の学友たちも「うんうん」と強く頷いた。 「私も政略結婚なんですけど、誰かと恋に落ちて、駆け落ちしたいくらいですわ」 大胆なことを言い出す学友たちに、千花子は少し圧倒されて目を開いた。
/297ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10377人が本棚に入れています
本棚に追加