第8章 コミケの大追走劇

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先輩が哀しげに笑った。 「頼むよ。あんたがやるって言ってくれないと、あたしは安心して都落ちもできないじゃないか。いいのかい? 他の誰かがインモラルをやっても」 「いやです」 そう言った自分に、自分でも驚いた。 「あたしがインモラルをやりたいです」 口に出して、初めての自分の気持ちに気づいた。 「はい、もっと大きな声で」 安藤先輩が顎を振り、フェンスの外をうながす。 あたしは手をメガホンの形にして屋上から叫んだ。 「あたしにやらせろー!」 安藤先輩は「なんかエロいセリフだなー」と苦笑した。タバコを灰皿で押し潰し、「じゃ、検査いってくっか」と病室に戻っていった。 病院の検査着とカーディガンの背中は、いつも会社で見る背中よりも小さく見えた。 それが安藤先輩と会った最後だった。
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