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先輩が哀しげに笑った。
「頼むよ。あんたがやるって言ってくれないと、あたしは安心して都落ちもできないじゃないか。いいのかい? 他の誰かがインモラルをやっても」
「いやです」
そう言った自分に、自分でも驚いた。
「あたしがインモラルをやりたいです」
口に出して、初めての自分の気持ちに気づいた。
「はい、もっと大きな声で」
安藤先輩が顎を振り、フェンスの外をうながす。
あたしは手をメガホンの形にして屋上から叫んだ。
「あたしにやらせろー!」
安藤先輩は「なんかエロいセリフだなー」と苦笑した。タバコを灰皿で押し潰し、「じゃ、検査いってくっか」と病室に戻っていった。
病院の検査着とカーディガンの背中は、いつも会社で見る背中よりも小さく見えた。
それが安藤先輩と会った最後だった。
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