第8章 コミケの大追走劇

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先輩は、そのまま会社に顔を一度も出さず、郷里の茨城に帰っていった。机の荷物を整理し、段ボールにまとめて実家に送り返したのはあたしだ。 その後、人事異動があり、あたしはコミック・インモラルの副編集長に昇進した。郷上に聞いた話では、安藤先輩からの強い推薦があったという。 部長が営業部との内線電話を終え、あたしに視線を戻した。 「まあ、お前の言いたいことはわかったよ」 資料をまとめたクリアファイルを手にソファから立ち上がる。 「悪いが俺はこれから営業と会議だ。社長と専務には俺から話をしてみる。がんばっちゃみるけど、この状況だ。あんまり期待するなよ」 「はい、よろしくお願いします!」 会議室を出ていく上司に、あたしは立ち上がって頭を下げた。 窓の外を見た。 月曜の午前、ビルに面した大通りは早くも車がつまり始めている。東京では歩道を歩く人もどこか忙しない。 目を空に向けると、そこにはあの病院の屋上で見たような澄んだ青空が広がっていた。
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