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「待てるまでよ」
今はデジタルデータで納品してくる漫画家が多い。編集者は漫画家の家に原稿を取りに行くのではなく、ひたすら編集部でデータが届くのを待つことになる。
「もう待てませんよ」
香坂の言葉にあたしは応えなかった。
それでも待つしかない。ひとの才能でメシを食っているのだ。できることと言えば、創作という暗く孤独な海をわたる漫画家に小さな灯りを振り、ひたすら港で帰りを待つことぐらいだ。
電話が鳴った。すばやく卓上の子機へ手を伸ばす。
松岡からだった。原稿が完成し、これから送るという。
「お疲れさま。メールがきたらすぐ落とすから、このまま電話つないでおいて」
ほどなくメールが届いた。記載されているURLからファイルサーバに上がっている原稿データを落とし、解凍する。
フォルダを開いたあたしのみぞおちがすうっと冷える。
何度もファイルを数え直す。結果は同じだった。
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