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腕の時計を見た。そろそろ行こう。携帯用の灰皿でタバコを押し潰し、立てかけてあった黒いパネルバッグを手に植え込みの縁から立ち上がる。
マンションの正面玄関に入り、インターホンで406号室を呼び出す。
『はい』
低いトーンの男の声がした。
「あの、ロマン出版の早瀬と申しますが」
数秒の沈黙がある。
『…えーと、お約束していました?』
戸惑いの色が声ににじむ。もちろんアポなどない。
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