第4章 少しずつね

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結構可愛い子だけど、阿木野さんは無理だよ、つうかここにいる女子全っ員に大きな声で忠告してやりたい。 無理だから! 阿木野さんは恋愛対象に女は入ってないから! って、もちろん、言わないけどさ。 「あー……暇だから?」 「ふーん、女の子いっぱいだからじゃなくて?」 「ハハ……」 阿木野さんがいるからって言ったらビビるかな。 横ですでに書いている田嶋のスケッチブックを覗き込んで見ると、ものすごく上手い。 「何? 絵、上手くね?」 「だって私元々美術部だよ?」 「あ、そうなんだ」 「だから、阿木野先生に代わってからのこの混みようにはちょっと驚く」 だろうな。 俺も含めてだけど、ほぼ全員が邪な気持ちでここにいるわけで、本当に美術が好きでここにいる人間には邪魔で仕方ないだろう。 それなのに田嶋は嬉しそうにしていた。 「邪魔じゃね? こんなにいて。前はいなかったろ?」 「んー、でも嬉しいよ。がらんとしているよりも人が多い方が楽しいでしょ」 出来た子だ。 絶対に邪魔だろうに。 実際に背のあまり高くない田嶋は、デッサンしている像が多分よく見えないと思う。 顔を上げる度に、見える所を探している。 とりあえず田嶋を真似て描いてみることにした。 別に絵を描きたいわけじゃないけれど、美術部入って阿木野さんだけじっと見つめてるってわけにもいかないし。 阿木野さんは、バイバーイ、なんて楽しそうに言って美術室を後にしていく女子に、やたらと爽やか笑顔で見送っている。 あの人モテたいんだろうか。 恋愛対象外のはずの女子にあそこまでの笑顔を向ける必要なんてない気がする。 「絵、上手くなりそうか?」 また俺の絵を見ながら笑うのを堪えている。 「なぁ、これ目と鼻どれ?」
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