第4章 少しずつね

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この前の絵と同様に顔のパーツがわかりにくいらしい。 からかっている阿木野さんにこれが目でこっちが鼻と、指で示しながら紹介していくと、殊更大きな声で笑い出した。 「は、腹っ! 腹痛ぇ!」 「ちょ、笑いすぎだって」 俺は絵を奪い返すフリをしながら、阿木野さんの腕を掴んで引き寄せてみた。 少しは動揺するかなって。 俺よりも下にある阿木野さんの瞳がこっちを見つめている。 これ以上引き寄せたら……逃げられるかな。 「お前……教師にキスしようとしてる?」 「……どう思う? 阿木野さん」 「先生だっつうの」 まだ逃げないでいてくれる。 もっと近くにいけるかな。 「ね、阿木野さん……あのピアスしないの?」 「ピアス?」 「初めて会った時にしてたやつ」 「ああ、あれね。男の教師があんなもの学校にして来れないだろ」 まだ……手は振り解かれていない。 少しずつ近づくと微かにあの甘い香りがしてきた。 「キレイだったのに……赤くて……血豆みたい。」 「プッ! アハハハ、お前血豆って! もうちょっと気の利いたセリフ選べよ」 あ~あ ここが限界か。 大笑いしながら、阿木野さんは俺の掴んでいた腕からすっと逃げ出してしまった。 「そんなに笑うことないだろ」 「だって、血豆って……それと、俺は男の教師ね? 男子高校生」 知ってるよ。 大きな声で強調しなくたって、知っている。 男とか先生とか関係なしに好きになるのも高校生っぽいでしょ? とニッコリと笑顔だけ返す。 「ハァ、早く帰りの準備済ませろよ。ここ閉めたいんだから」 「は~い。阿木野さん」 「先生」 わざとらしく溜息を漏らすのを気がつかないフリをして、子供のように返事をしながら美術室を出ることにした。 「早く帰れよ」 「また明日、お昼にね」 明日はサッカーがある。 だから昼しか進入はできないけど。少しずつ入っていくんだ。 そっちに。
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