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この前の絵と同様に顔のパーツがわかりにくいらしい。
からかっている阿木野さんにこれが目でこっちが鼻と、指で示しながら紹介していくと、殊更大きな声で笑い出した。
「は、腹っ! 腹痛ぇ!」
「ちょ、笑いすぎだって」
俺は絵を奪い返すフリをしながら、阿木野さんの腕を掴んで引き寄せてみた。
少しは動揺するかなって。
俺よりも下にある阿木野さんの瞳がこっちを見つめている。
これ以上引き寄せたら……逃げられるかな。
「お前……教師にキスしようとしてる?」
「……どう思う? 阿木野さん」
「先生だっつうの」
まだ逃げないでいてくれる。
もっと近くにいけるかな。
「ね、阿木野さん……あのピアスしないの?」
「ピアス?」
「初めて会った時にしてたやつ」
「ああ、あれね。男の教師があんなもの学校にして来れないだろ」
まだ……手は振り解かれていない。
少しずつ近づくと微かにあの甘い香りがしてきた。
「キレイだったのに……赤くて……血豆みたい。」
「プッ! アハハハ、お前血豆って! もうちょっと気の利いたセリフ選べよ」
あ~あ
ここが限界か。
大笑いしながら、阿木野さんは俺の掴んでいた腕からすっと逃げ出してしまった。
「そんなに笑うことないだろ」
「だって、血豆って……それと、俺は男の教師ね? 男子高校生」
知ってるよ。
大きな声で強調しなくたって、知っている。
男とか先生とか関係なしに好きになるのも高校生っぽいでしょ? とニッコリと笑顔だけ返す。
「ハァ、早く帰りの準備済ませろよ。ここ閉めたいんだから」
「は~い。阿木野さん」
「先生」
わざとらしく溜息を漏らすのを気がつかないフリをして、子供のように返事をしながら美術室を出ることにした。
「早く帰れよ」
「また明日、お昼にね」
明日はサッカーがある。
だから昼しか進入はできないけど。少しずつ入っていくんだ。
そっちに。
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