第8章 なんで聞いてくんないの

2/5
3356人が本棚に入れています
本棚に追加
/650ページ
「本当だ~勉強してる」 昼飯を食べながら、英語の教科書を開いていた俺を面白そうに田嶋が眺めていた。その横には西澤。 「田嶋、こいつと仲良くしない方がいいよ。すっげえ女の子好きだから」 「アハハ! 知ってるよ~有名だもん」 俺の発言に怒ってみたり、田嶋の発言にしょげてみたり、西澤がピエロみたいで面白い。 明日からテストだっていうのにこんなんでこいつは大丈夫なんだろうか。 「それより本当に勉強してる。そんなキャラだっけ? 梶君って」 「そ、キャラ変更」 マジでキャラ変更だ。 適当に誰かと付き合ってみるとかも、もうしない。っていうかする気がしない。 あの人だけしか欲しくないんだ。 こんな風に想う事自体が子供っぽいのかもしれない。 駄々をこねている。 そうなのかもしれない。 それでもいい、そのためなら勉強だってなんだってするよ。 学校に来ても極力、美術室近辺や職員室には近寄らなかった。 それだけのことで会わないものなんだ。 考えてみれば昼と部活、そのくらいしか会えないのかもしれない。 俺が動かなければ何も始まらないと実感する。 週に一回の美術の時間は悪いけど保健室にいた。 試験前の一回だけだし、会えば俺は多分顔に出る。 今までと違って不自然なくらいに見つめると思う。 余裕がないから……全然伝えられてないから……。 阿木野さんにしてみれば、今このタイミングで美術の授業にいないのは、ムカついたかもしれない。 それとも気にもしていないかもしれない。 本当にただのいち生徒。 でも、バイト先にわざわざ来てくれた。 告った時に手に触れても跳ね除けなかった。 だから阿木野さんだって気になっているのかもしれない。 ずっとそんな感じに気持ちが上がったり沈んだり、だから勉強はちょうど良かった。 頭を切り替えるいい材料だったし、何より妙に目標みたいになっていたから。 テストの成績が良ければ阿木野さんの逃げ道をひとつ潰せる。
/650ページ

最初のコメントを投稿しよう!