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この辺だったと思うんだけど。
どうだったかな……阿木野さんのあとをついて歩いていただけだから、あんまり覚えていない。
少し後ろを歩いていたから、ずっとあの甘い香りがしてて心地良かったっけ。
まさかその人を自分が好きになるとは……あ
ぁ、でもなんとなく予感はあった気もする。
年上の男なのはわかってたけど、なんか目が追っていたから。
それこそ、その時点では興味ってくらいだったとは思うけど、それでも気になっていた。
一目惚れ、とか?
多分、高校生がウロウロしていい所じゃない。
背が高いからそんなには子供には見えないと思うけど、キョロキョロしないように気を付けながら、阿木野さんが連れて行ってくれたバーを探した。
ゲイバーなんてよくわかんないし、変な問題になると困るから他の店には行けない。
あそこのオッサンなら俺が高校生ってすでに知っている。
「あ……」
曲がり道があって、そこへ目を向けると見覚えのある看板、そのゲイバー自体の看板は小さすぎて気が付かないけど、その斜め前にある看板がやたらと大きくて、怪しい紫色だったから覚えていた。
見覚えのあるドアだ。
多分もう夕方だから営業してるよね?
そっとドアを開けると、聞き覚えのあるオッサンのネコ撫で声でいらっしゃいと言われた。
よかった。
それに中の様子も見覚えがあった。
「あらっ? あの時の高」
「しーっ!」
高校生って言いそうになるオッサンに駆け寄って、急いで言葉を中断させる。
あの時は阿木野さんにばかり目が向いていたから、そんなに思わなかったけど本当に普通のオッサンだ。
「何よぉ阿木ちゃんは?」
「知らない」
「保護者いないのにこんなトコに来ちゃダメでしょぉ」
「だから、しーっ!」
保護者じゃないっつうの!
オッサンが文句を可愛らしく言ってはいるけど、普通のオッサンであることに変わりはない。
未成年だからさすがに酒は頼まないけど、酒に見えるようにウーロン茶を頼んだ。
「暇つぶしするんなら場所間違ってるわよ。早く帰んなさい。最近、阿木ちゃんも来ないし……あんたまさか! 阿木ちゃんに会いたくて?」
そりゃ先生って忙しいって言ってたし、昼もなんかパソコンでやってるし。
ここに酒を飲みに来る暇はないんでしょ。
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