第9章 どうかウーロン茶1500円じゃありませんよう に

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ウーロン茶を出し渋るオッサンが、またあの冗談で千五百円と言いかけるのを、はいはいとなだめて席を移った。ここじゃ、オッサンがうるさくて思ったように動けないし、絶対に余計な事を話すに決まっている。 今日は高校生じゃなくて、せめて大学生の想定なんだから。 ナンパの仕方なんて男女でそんなに違いはないでしょ。 阿木野さんが俺にとっての初めての男になりたくないんなら、初めてじゃなきゃいいんだ。 半ばヤケクソだけど、どうせ話なんて聞いてくれない。 なら、本気だって事を知ってもらうしかない。 どんなに馬鹿げた方法であっても。 煙草、でも吸えたらよかったかな。 ひとりでテーブルでウーロン茶なんて飲んで、すっげぇ暇なんですけど。 そこへオッサンが不服そうにしながら、ポッキーを運んでくれた。 「え? なんでポッキー?」 「子供はおやつ食べてなさい。まったくここ幼稚園じゃないんだから。それ食べ終わったら帰りなさいよ」 「……」 あえて知らないフリ。 まだブツブツ言っていたオッサンは他の客に呼ばれて、そのおやつはサービスしてあげるから、とだけ言うと仕事に戻った。 ポッキー食べに来ただけ? でもなぁ、さすがに俺も一応選びたいわけで、あと一回でやり方のコツを教えてくれそうな、ヤルのが上手い人でないと困るし。 ぽりぽりとポッキーを食べながら、本当に暇つぶしみたいになっていた時だった。 新しく客が入ってきた。 中性的、とも言える顔で背も小さめ、少し切れ長の目が美人な男って感じで、黒い髪がさらさらしていた。 絶対に上手そう! そんな感じ。 オッサンと何か一言二言話している最中も、いちいち仕草を色っぽくしている。 あの人で決定、と思ったら、向こうも俺を見つけた。 こっちを見てにっこりと笑っている。 オッサンが何かその人に言っているけど、そんなのはシカトで歩いてきた。 「ひとり?」 案外高い声、女とは違うけど、妙に色っぽい声だ。 「うん」
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