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「ちょ、阿木野さん?」
「うるさいっ!」
何も言わずに俺の手を引っ張ったまま、歩いている阿木野さんの顔が見たかった。
「ね、阿木野さんってば!」
逆に阿木野さんを引っ張って歩くのを止めさせる。
振り返った阿木野さんはまだ俺を睨んでいた。
「お前、馬鹿じゃないのか?」
「馬鹿じゃない! 俺が初めて寝る男になりたくなって言ったのはそっちじゃん!」
「だからっ! それが馬鹿だって言ってんだろ?」
「何が? だって阿木野さん全然俺の言ってることを本気にしないじゃん! 興味本位とかさ、なんで知らないフリすんの?」
「はぁ? だってそうだろ? なんでわざわざ男の教師なんか好きになるんだよ!」
「わざわざだからだよ! 男とか教師とかじゃなくて! 阿木野さんが好きなんだって!」
「……あそ」
ほら、またそうやって受け流そうとするんだ。
俺は阿木野さんの冷えた頬を両手で包んで、すぐにキスできる距離まで近づく。ここが道端とかもうどうでもいい。
「……俺の事、好きになってよ」
阿木野さんの目がじっとこっちを覗き込んでいた。
俺の気持ちを探るように。
探りたいだけ探ればいいんだ。
別の言葉なんて出てこないんだから。
「……頭、冷やせ」
「!」
それでも届かない。
ムカつくを通り越して、しんどくなってきた。
「ねぇ…じゃどうやったら聞いてくれんの? お願いだから、好きって言ってよ」
こんなところが子供なんだろうな。
でもさ、阿木野さんも悪いんだ。
気持ちは受け流すくせに、今頬を包んでいる俺の手は払いのけない。
高校生って馬鹿にするくせに、俺を他の奴らよりも近くに置かせてくれる。
「お前……わかってないんだよ。俺がお前を好きになったところで男同士だし、お前の学校で働く教師なんだよ。誰かに知られたら高校生の男同士の恋愛よりも大変なんだ」
「うん」
「だから」
「じゃ、なんで来んの? なんで、あの人から俺を取りに来たの?」
あんなに焦って怒って、マフラーもしないで、風邪引くじゃん。
なのにウチのとか言わないでよ。
「……阿木野さん……俺の事、好きになってよ」
こんなに何かを願ったことはないと思う。
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