第10章 コーヒーだっていくらでも飲んでやる

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「ちょ、阿木野さん?」 「うるさいっ!」 何も言わずに俺の手を引っ張ったまま、歩いている阿木野さんの顔が見たかった。 「ね、阿木野さんってば!」 逆に阿木野さんを引っ張って歩くのを止めさせる。 振り返った阿木野さんはまだ俺を睨んでいた。 「お前、馬鹿じゃないのか?」 「馬鹿じゃない! 俺が初めて寝る男になりたくなって言ったのはそっちじゃん!」 「だからっ! それが馬鹿だって言ってんだろ?」 「何が? だって阿木野さん全然俺の言ってることを本気にしないじゃん! 興味本位とかさ、なんで知らないフリすんの?」 「はぁ? だってそうだろ? なんでわざわざ男の教師なんか好きになるんだよ!」 「わざわざだからだよ! 男とか教師とかじゃなくて! 阿木野さんが好きなんだって!」 「……あそ」 ほら、またそうやって受け流そうとするんだ。 俺は阿木野さんの冷えた頬を両手で包んで、すぐにキスできる距離まで近づく。ここが道端とかもうどうでもいい。 「……俺の事、好きになってよ」 阿木野さんの目がじっとこっちを覗き込んでいた。 俺の気持ちを探るように。 探りたいだけ探ればいいんだ。 別の言葉なんて出てこないんだから。 「……頭、冷やせ」 「!」 それでも届かない。 ムカつくを通り越して、しんどくなってきた。 「ねぇ…じゃどうやったら聞いてくれんの? お願いだから、好きって言ってよ」 こんなところが子供なんだろうな。 でもさ、阿木野さんも悪いんだ。 気持ちは受け流すくせに、今頬を包んでいる俺の手は払いのけない。 高校生って馬鹿にするくせに、俺を他の奴らよりも近くに置かせてくれる。 「お前……わかってないんだよ。俺がお前を好きになったところで男同士だし、お前の学校で働く教師なんだよ。誰かに知られたら高校生の男同士の恋愛よりも大変なんだ」 「うん」 「だから」 「じゃ、なんで来んの? なんで、あの人から俺を取りに来たの?」 あんなに焦って怒って、マフラーもしないで、風邪引くじゃん。 なのにウチのとか言わないでよ。 「……阿木野さん……俺の事、好きになってよ」 こんなに何かを願ったことはないと思う。
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