第10章 コーヒーだっていくらでも飲んでやる

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初めて通る道。 家に帰るのと正反対。 でもそれだけじゃなく、世界が違って見えた。 暗い夜の道を前でブツブツ文句を言いながら歩く、その自分の好きな人の家に向かっている。 阿木野さんのエリアの中でも、一番阿木野さんに近いトコに向かっている。 「ったく! まだ仕事残ってたのに、晃さんからビビるようなメールが来るからマフラーだって忘れて置いてきたっつうの!」 「あきら……さん……?」 怒りながら教えてくれた、あのゲイバーのマスター、オッサンが阿木野さんにメールで俺が一人で来ていることを教えてくれていた。 “大変! あの高校生がタチもネコも処かまわず声掛けて、どっか行っちゃうわ!” よく事情はわからないまでも、あのオッサンの機転で今、あの色っぽい人ではなく、阿木野さんと歩けている。 オッサンではなく晃さんって呼ぶことにしよう。 「マフラー貸すよ」 「遅ぇよっ!」 奪うように俺のマフラーを取り上げて自分の首に巻きつけた。 寒いと言いながら、顔の半分までをそのマフラーに埋めながら、こっちを睨んでいる。 「おいっ! あとでこのマフラーの匂いとか嗅ぐなよ!」 「しないよーそんなこと……」 たぶんね。 駅から十五分くらい歩いたところにあるマンション、そこに案内された。 「お邪魔しま~す」 「邪魔だって分かってるなら帰れよ」 嫌です。
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