第1章

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 ある日、翡翠に問われたことがある。伴侶を探そうとは思わないのかと。その問いに俺は「探してる」と答えけど、本当のところ、探してなんかなかった。  翡翠には伴侶がいる。何百年という時を共に過ごす相手が。翡翠とは対照的な赤土色の髪の龍だ。彼女は幼い頃に両親を失ってから、長く人の手で育てられた、珍しい龍。髪と同じ色の目は、陽の光があたると明るく輝く。  それは肥沃な土に光が差したような、あたたかな色合い。彼女の穏やかな口調と相まって、側にいるものを暖かな心地良さで包み込む。  そんなところに惹かれたのだと思う。翡翠が、伴侶である紅緋さんを見つめる目は、日だまりに湧いた泉のような暖かさがある。  澄み切った湖色の、草花や泉を好む龍と、豊かな赤土色の、草木と日だまりを好む龍。仲睦まじく、とても似合いだと誰もが言っている。もちろん俺もそう思う。けど。
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