第1章

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楕円の繭から人の腕が一本生えている奇妙な光景、それも長くは続かない。細く女性的な腕が手探りで繭の外側の糸を鷲掴みにし、ぐいと力を籠める。同じ事が内側でも行われているのだろう、白い繭の表面を覆う糸がびんと張る。 そして、ついに負荷に耐えきれなくなった繭の表面が太い縄を引きちぎる様な音を立てながら大きく裂けていく。最初は小さな隙間だったものが縦方向に大きく長く伸びていき、人が一人くぐれる程の大きさにまで広がった所で中からひとつの人影がゆっくりと現れる。 まるで暖簾か何かでもくぐるぐらいの容易さで白い繭から抜け出したその人物は、首元に手をあて軽い音を鳴らした。 「言いたいことは、ありませんね?」 ぱき、と吸血鬼が拳を鳴らす。そこから溢れる妖気の圧が数倍以上の体躯を誇る牛鬼の多脚を一本残らず竦ませた。 「ぐ――――まだだ! まだ儂には雫がおる! おい何をしとる!? お前の性質なら如何に馬鹿力といえど関係あるまい!!」 血走った眼で周囲を睨みつけながら喚き散らす妖怪の足元から透明の液体が噴き出し始める。ぼこぼこと泡立つ様に質量を増していくそれは、みるみるうちに人一人分まで膨れ上がり最終的には身体の一部が大きく膨らんだ金髪の女性の姿を作り上げた。
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