第1章

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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ゴガッシャァァアアアッ!! と、本当に何の前触れも無く海の家が割れた。 屋根が割れ、ガラスが砕け、椅子やテーブルは粉々になって辺りに吹き飛んでいく。お菓子の空箱を踏みつぶすような感覚でコンクリートと木材で出来た建物を叩き割ったのは黒く巨大な蜘蛛の脚だった。 その巨大な質量を持った一撃は天井も床板も一緒くたに叩き潰し、めくれ上がった床板の間から覗く砂地が衝撃によって舞い上がった。 辺りを覆う砂ぼこりの中で立っている人影は一切なく、直前まで話声で溢れていた空間は瓦礫の転がる音だけが響く空虚な物へとその姿を変貌させていた。 「ほんの一瞬、巨大な妖気を感じたから来てやったのに何の手ごたえも無いとは。儂の勘違いであったか」 左右非対称の巨大な角を生やす牛の頭に小山の様な黒い巨躯から生える八本の脚、ぬらりとした光沢をもつそれが蠢く度に静まり返った浜辺に地響きが鳴る。 大型のトラックを二回りほど大きくした様な蜘蛛型の胴体にそれと釣り合うサイズの牛面の頭部。人間を貪り病を振りまく妖怪――――――牛鬼の姿が月の光に照らしだされる。 「それにしても雫も気が利く。ここ最近若い男の生気しか口にしておらんだからな…………うっかり潰してしまったかもしれんがこの小屋の中には若い女の気配も感じた。やはり人間は生身をそのまま齧るに限る。どうした雫、まとめて潰してしまったかもしれんがお前にとっては些末な事だろう?」 しわがれた老人の様な声を発する牛面が下卑た笑みを浮かべる。吊り上がるその口元からは腐臭に近いに匂いが垂れ流されている。
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