第1章

186/215
前へ
/215ページ
次へ
「しかしつい横着してしもうたが中で混ざっとらんだろうな。どれ、一度改めて――――」 牛鬼から見れば小さな箱程度の海の家。それを直接半壊させた八本ある蜘蛛の脚の内の一本を引き抜こうと力を籠める。だが―――― 「ぬ? 何かに引っかかる訳でもあるまいに。この――――何故、動かん!!」 一つの異変。自らの意思で動く筈の己の脚がどれだけ力を籠めようとまるで微動だにしない事に眉根をひそめる牛鬼。 「ええい、何だというのだ! 鬱陶しい、力づくで――――――ッぬぐ!?」 不意に、原因不明の引っかかりが消えた。突然の事に反応出来なかった牛鬼の巨体は渾身の力を込めていた反動で大きくふらつく。 ずずん、と身体の芯から揺らすような振動が辺りを揺らす。 ようやく自由になった蜘蛛脚の一本。だが、目で見て確認するよりも先に気づく、己の躰の末端から来る違和感。視界に写る映像を理解するよりも速く、激痛という信号がその異常事態を強烈に伝えてくる。 「な、ギぃ! がぁあああああああッ!?」 鋼鉄にすら匹敵する硬度を誇る蜘蛛脚の甲殻。ナイフや銃弾といった当たり前の武器では傷一つつけることの敵わない筈のそれが、あろうことか先端から一メートル程の部分で無残に切断されていた。まるで尋常ならざる力でもって無理やり引きちぎったかのように。
/215ページ

最初のコメントを投稿しよう!

246人が本棚に入れています
本棚に追加