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鋭い甲殻の先端が相一の頭蓋に風穴を開ける直前――――――ッゴォン!! と鉄の塊同士がぶつかりあった様な重い音が炸裂し、その衝撃が彼の前髪を微かに揺らした。
彼は一歩も動いていない。それどころか指先でスマホを操作する事すらしていなかった。
――――にも関わらず、真上から迫っていた筈の蜘蛛脚が大きく逸れ、既に荒れ果てた海の家の床に深々と突き刺さった。
「その妖気、やはり先刻感じたのは気配は気のせいでは無かったか! 小娘が――――貴様一体何者」
「私の事なんてどうでもいいんですよ。あなたは私の目の前で所長を傷つけようとした、それも二度。――――――その落とし前は薄汚い蟲の脚一本二本で済むと思わない事ですね」
相一の前に立ち、拳を突き上げた体勢で眼前の醜悪な怪物を睨みつける白髪の吸血鬼。
その深紅の瞳に浮かぶのは怒り。対面する牛鬼、サッカーボール程の直径を持った濁った眼球も同じ感情を表していた。
「その程度でいい気になるなよ小娘。ぐしゃぐしゃの肉塊にして頭から啜ってやろうぞ」
「ご自由にどうぞ。――――――それが可能であるならば」
夜の浜辺を舞台に、怒れる妖怪同士が正面から激突する。
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