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ざん、と牛鬼の正面に立つ。静かな怒りに燃える吸血鬼の瞳が眼前の牛鬼を蔑む様な視線で射抜く。
「――――――と言いたいところですが、もう一度だけチャンスをあげましょう。二度と人を襲わないと誓い今すぐこの場から立ち去るというなら――――――」
瞬間、白い何かが覆いかぶさるように吸血鬼の視界を埋め尽くした。
それは糸。
顔を上げ、僅かに吊り上がった牛鬼の口元から放たれたそれは投げ網の様に璃亜を頭から包んでいく。
あっという間。夜の砂浜に等身大の白い繭の様な物体が出来上がった。
「クク、クハハハハハ!! 愚か者が…………さっさと止めをさせばこうはならなかったろうに。人間とつるんでいる妖怪なぞ所詮この程度、呆れるほどの甘さだのう。一応言っておくがその糸を引きちぎろうなんて考えはやめておいた方が身のためだぞ小娘。儂の吐く糸は絶対に切れん、貴様の埒外な膂力をもってしてもそれを脱出することは不可能というわけだ」
大口を開け血と悪臭をまき散らしながら笑い声をあげる牛鬼。
「ちょっとちょっとあれは流石にやばいんじゃないの? 蜘蛛の糸って鉛筆くらいの太さがあれば飛行機を引っ張れる強度になるらしいじゃない。蜘蛛妖怪のそれが虫以下って事は無いだろうしいくら璃亜でも…………」
相一の隣では雪女が白い繭状態になった吸血鬼を心配するような言葉を口にしているが、言葉とは裏腹にその表情からは微塵も不安さを感じない。
「まあ確かにちょっと心配になってきたな。あの牛鬼、まともな形も残らないんじゃねえかって…………」
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