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「――あんながね。翔君に気になる人の話をしていたでしょ? その人はお笑いが好きでね。いつもクラスの友達と楽しそうに、話をしていたの」
微笑みながら、若菜さんが喋り出した。
「あんなはその人とちゃんと話をしたことがなくて。話をしたいって思っても勇気がなくて。だからその人が好きなお笑いのことを知れば、話すきっかけが出来るんじゃないかって思ったの」
彼女は、吹き付けてきた風になびく髪を押える。
「その人は凄く優しい人なの。あんなは自分でそう思ったことは一度もないけど、学年一のマドンナだとか呼ばれていて……。良く思ってもいない女の子もいっぱいいた。たくさん話し掛けにくる男の子もいた。でもその人は皆、上辺だけで、中身は何も見てくれてはいなかった」
悲しげに話す若菜さん。それを黙って聞く。
「でもその人だけは違った。ちゃんと中身を見てくれていたの」
悲しい表情は真剣なものに変わる。ドキドキしながら、そんな彼女の目を見つめ続ける。
「駅でおばあさんを助けてるところを見て、好きになってくれた」
――え?
その言葉を聞いて、驚きに目を丸くさせる。
……何でそのこと知ってるんだ?
健太郎達にしか話をしたことがないのに……。
「そして。悪く言う人達から、庇ってくれた」
…………まさか。
田辺達のやり取りを、見られていたのか?
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