一冊のノート

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こいつは俺が若菜さんに憧れていることを知っているので、こうやってちょっかいを出してくる。 「毎日毎日。そーやって遠くから見てるだけとか、ストーカーみたいだな」 「うっせーなぁ。いいんだよ」 「話し掛けるくらい行けるだろー?」 行けたら苦労はねーんだよ。 行けないからこうやって見てるんだろーが。 「でも宮沢さんはお前には無理だと思うけどなー」 ……それは俺も分かってるよ。 「それは俺も自覚はしてる」 「ふーん。じゃあ何で諦めねーの?違う子好きになった方が可能性は出てくんじゃねーの?」 それもそうだろう。 可能性のない子を想っていても、可能性はないのだから。 それなら言葉は悪いが、俺に合った手頃の子を好きになった方が、初の彼女も出来るってもんだ。 でもさ……。仕方ないよな。 見ちゃったんだよ。 1年生の時の入学式。 風が強くて、咲き乱れていた桜が舞っていた。 まるで雨のように降る桜吹雪の中、若菜さんが目の前にいたんだ。 風で乱れる髪の毛を押さえながら、降りゆく桜を見ながら微笑んる姿。 その動作ひとつひとつがスローモーションになっていて、まるで幻想的のような美しさだと感じた。 気付けば、一目惚れしていた。
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