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彼の口元は緩やかに曲線を描き、耳を傾けていなければ聞き落してしまいそうな小声で語る。
カウンターの少年は、相変わらずウタさんと談笑しており彼が帰って来ないことを不思議に思う様子はなかった。
― 時々だけど…此処には人ならざる心を持った者が出入りする。俺たちは慣れてるからイベントくらいにしか思ってないけどね。気を付けないと、目をつけられて殺されちゃうよ ―
気を付けて
彼は言う。
「ここは現実逃避の店。友達ごっこをする場所だ。本来君みたいな”普通に暮らせる子”が来る場所じゃない…それでもよければまた来なよ?その時は歓迎するからさ」
妖しい笑みを浮かべ、テーブルのジョッキに手をかける。
玄関の方から気味のいい鈴の音が聞こえた。
「じゃあ、またね。ヒロさんによろしく―――それから、未成年はお酒を飲んじゃだめだよ」
ごく、ごく、と清々しいほどの音を立て喉を通るビールは、あっという間に空になってしまう。
不気味なまでに優しい笑み。
今日はやけに人が多いな、と言うウタさんの声。
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