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周りも無駄に響く彼女の声がする方を半ばうんざりした目でちらりと一瞥して通り過ぎていく。
誰かが開けっ放しにした出入口から冷たい空気が吹き込んでパラパラとノートを捲った。
声を張り上げ真央を教室移動へ引っ張ろうとする彼女をよそに、彼自身はぼんやり窓の外を眺めながら思う。
―――こんな日は彼女に会いたくなるな―――と。
世界は冷たく乾いている、と思い始めたのはここ数年のこと。
誰かが居なくなってしまっても、何一つ変わらずに次の朝がやってきてしまう。自分もまた、歳を重ねてしまう。
空気が乾燥すればするほど、会いたくなる人がいる。
サボってしまおうか。
荷物をまとめて講義を抜け出す数分後の自分を想像するが、そんなことをすれば彼女を怒らせてしまいそうである。
ノートと教材一式を片手に抱え、やけに世話焼きな人物の背中を追う―――気持ちはありがたいが、世の中には≪有難迷惑≫という言葉があるのを彼女は知っているだろうか。
どこかの窓があいているのか、教室を抜け出た校舎は薄手のTシャツではひどく体の冷える気温をしていた。
「やっぱり俺、帰るよ」
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