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真央が言うと、前方を歩く人がぎろりと睨む。
「やけに寒いし、風邪だと思うんだ」
「またそんなこと言って!」
「みんなに移すと悪いし」
「肌寒いくらいで風邪とか言わない!軟弱者め」
「でも…」
言いよどむ真央に、彼女は深いため息をつく。
「会えないんでしょう?いつまで引きずるの、真央」
眉間に寄っていた皺が解け、一瞬にして表情が消える。冷めた声で、早口に言う彼女にどきりとした。
会えない、と思うと余計に会いたくなるのは人間の性か。
他人に言われるとそれがまた音を上げて加速してしまう。胸の拍動が痛いほど主張した。
「澄田には…関係ないだろう」
言い過ぎかもしれない、とは思った。が、音になった瞬間からその後悔は遅すぎるものとなり。
「そう…だけど―――」
落ちてしまった彼女の声に、途方にくれそうな気持になった。
どうするか。
俯いてしまった彼女の旋毛を見つめ、真央は黙り込む。
正直もう帰ってしまいたい。彼女の存在で脳をいっぱいにし、ゴロゴロとして今日という人やり過ごしたい――――がしかし、こうして心配してくれている人間を無視するのも気が引けるものだ。
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