3.祭の朝

10/13
前へ
/320ページ
次へ
口を開けた襖の向こうから、やけに疲れた笑みを浮かべたウタさんが出てきた。 背中には脱力しきったスズシロの大きな図体。 ぶら下がったそれをハヤトは指先でつつき、手伝おうか?と戯笑を浮かべる。 「手伝うならもっと早くに手伝ってほしかったよ」 静かに寝息を立てるスズシロは、恐らく裕美と話していたあのテンションで彼に絡み続けていたのだろう。 「スズシロさんはどう?ここから離れられそう?」 「…食べられてしまうだろうね。すごく楽しそうだったよ」 「…そっか」 垂れ下がったスズシロのネクタイを、彼女はきゅっと首元まで締め上げ、先を掬い上げてその肩にかけた。 「社会復帰できると良いね」 裕美の言葉にハヤトは失笑する。 「出来るくらいなら“こんなとこ”にいねぇよ」 「“こんなとこ”をホームにしてる俺たちもどうかと思うけど。帰る場所なんてないんだろうね」 リュウも続く。ウタさんの背中に乗せられたスズシロを遠目に見ながら。 悲観的かつ批判的な言葉に対しウタさんは悲しそうに眉を下げるが、何も言わない。 眼鏡の奥で揺れる瞳に不安を感じた裕美が彼らを睨んだ。 「止めてよ虚しくなる」
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加