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例えば、もしもの話だ。
12歳の裕美がSHOUTに出会わなかったとする。
彼女はとてもつまらない毎日、薄暗く部屋と涙の枯れる自分の姿を想像した。
「ウタさんに会わなかったらきっと、私は人生をつまんないとしか思えない生き方をしてたと思う」
掌に力が入る。
古傷が痛むような気分。
それでもまだ、笑えるようになっただけましだ、と思っている。
染め直しを繰り返し疲れ切った毛先をつまみ、指に絡める―――するりと指先を逃れるその束。
後ろで同じように、彼女の髪の毛の先を掬う気配を感じた。
裕美の耳元をすり抜けウタさんへと投げかけられた、リュウの穏やかな声。
「俺たちだってネバーランドの住人じゃない。否応なしに前進させられてる」
だけどまだ、その時じゃない。そういう声は何を思い出しているのか、とても暖かい波長だ。
裕美は振り返らなかったが、きっと彼は声と同様柔らかい表情をしていたのだろう。ウタさんの顔が脱力するように、安心した笑みを浮かべる。
店の空気が似合う、彼女の大好きなウタさんの顔。
眼鏡の奥で細められるその目が嬉しそうで。
それがまた裕美を安心させた。
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