3.祭の朝

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「ウタは俺らを突き放したいのか引き留めたいのかわかんねぇな」 「自分でもわからないなぁ。いつまでもハヤトの為のオコサマプレートを作りたいとも思うし」 ハヤトの言葉に軽い笑いを飛ばすウタさん。 釣られるようにしてリュウが笑い、裕美が笑い、文句を言いながらもハヤトが笑った。 けたけたと笑うハヤトは、心臓の辺りに手を添える。 胸元の十字架は本人いわく何かの願掛けらしいが、誰もその詳細を突っ込んだことはない。 身長が今の半分強ほどしかなかった頃から空いている、リュウのピアスのことを知っているのはごく少数、その者たち―――裕美だってピアスに込められた彼の思いを知ろうとはしない。 殆ど家に帰らない裕美に、家族構成を訊く者もここにはいない。 誰かは言っていた。 痛みに触れない、傷をえぐらない、馴れ合いとも言えるそれはまるで家族ごっこ。 目尻に涙を浮かべるほど笑いこけたハヤトが、ふう、と息を吐く。 「俺たちが変わっても、この店は変わんねぇえよなぁ」 それがいいんだ だから、離れられないのかもな、と。そう言った。
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