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手から離れたその太くて芯のある指先が、一冊のアルバムを手に取る。
B5サイズで、外見から写真を差し込むだけじゃないフィルムで保護するタイプのアルバムだということが判る。
ちょっといい値段がする、台紙式。
彼が開いたそのページには、手書きの飲み物メニューが挟まれていた。
ソフトドリンクからアルコール、フロート、タピオカまで様々な種類が取り揃えられている。
迷いに迷って、生ビールに決めた。
さて、どうやって注文するか。
始めに玄関で出迎えてくれた男はカウンターの向こうで若い男と話し込んでいる。見たところ呼び鈴のようなものも無い。
声をかける…雰囲気ではない。
大きな音がそぐわないほど一般家庭に近いその環境は、既に「店に居る感覚」というものを偏見から外し取ろうとしている。
迷っていると、カウンタの向こうの男と目が合う。
彼は手を止めて布巾で手を拭うと、ダークブラウンの前掛けを結び直しながらこちらに歩いてきた。
「なにか飲むかい?」
不思議なことを言う。
「え、と。生をひとつ」
「オーケイ、すぐお持ちします」
飲食店で、「なにか飲むかい?」だなんて。飲むから来たに決まっているのに。
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