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ショウさん曰く、ここはそういう場所らしい。
飲み食いする気がなくとも立ち寄る者もいるし、ひとりでコーヒー一杯だけ平らげ早々に帰って行く者もいる。
何かが欲しい時は、オーナー、ウタさんの所へ行って伝える。
ほとんどの人は、店に入ってすぐに注文してから席に着くらしい。
「横着をして大声で注文したりすると、追い出されるから気を付けな?ああ見えて、ウタさんは近所迷惑に煩い人だから」
顎を少し引き、ニヤリと悪い笑みを浮かべるショウさん。
静かに飲食し、静かに交流するのが暗黙の了解。
「はあ…」と曖昧に答えるが、どこら辺をみて「ああ見えて」と判断すれば良いのか。
橙と白の黄金比率を保ったグラスを手に戻って来るウタさんを見つめ、眼鏡の向こうの丸い瞳やゆるやかなカーブを描く口元を順に視線を流していく。
失礼は承知だが、無意識に目が動いてしまった。
「寛げて……は、なさそうだね」
ショウさんの前で背筋を伸ばした姿を目に、彼は困ったなぁと苦笑する。
「肩の力を抜いて、誰にも気を使わなくていいからね」
とは言うが、現時点で誰かに気を使っているわけではないのでどうしようもない。
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