24人が本棚に入れています
本棚に追加
´
「ふんっ、捕まれば情け無い面をしとるもんだがや」
そう言った信定は、馬上から降りて間者の処に歩み寄り、屈み込んだのでした。
「お前のお陰でにゃ、儂(わし)に仕える三人の若武者が死んだがやっ!」
と、荒い口調で鉄扇を激しく撃ち、
間者の怯む表情には、頭から吹き出た血が流れ落ちました。
「お前は何処の臣下(しんか)だがや?
君主の名を聞こうかっ」
押し黙る間者に、信定は更に鉄扇で撃ちまくるのでした。
「はぁ…はぁ……」
間者は血だらけになりながら、全身を痙攣(けいれん)させて仰向けに倒れました。
「ふんっ、しぶとさだけは誉めてやるが。
けどな、我が家臣の無念はまだまだ晴らせんがや!」
信定は、壱番槍の権助に逃げぬようとに両足の腱を切断させ、
更に丸裸にして内臓が露出せぬくらいまで腹を十文字に割(さ)かせました。
「間者、あの遠吠えが聞こえるぎゃぁ?
儂らは、京の都を離れて国許へ還るぎゃ。
このような腐った都は要らんが。
儂ら織田一族がやがては天下を握って、活気に栄える都を造って見せるがや!」
周りを見回すと、血の臭いに誘われて、蠅と野犬が集(たか)り始めるのでした。
信定は騎乗すると、手綱を引いて帰路の東から北へと向かわせ、
多勢の家臣達もそれに従って進むのでした。
陽は大きく傾き、伸びた影は織田の軍勢を忙しく映し出しました。
口を塞がれ動けぬ身体にされた間者に、
野犬がじわじわと迫って来ては、臭いを嗅いで傷口を舐め始めるのでした。
´
最初のコメントを投稿しよう!