第一話

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桐田先生もあの時偉そうに注意してきたけど、内心私たちの行為が羨ましいと思ったに違いない。だけど教師という建前で、注意したんだ。 ……それにしても、忘れられない――。哀しそうだけど、まっすぐ見つめてきた、あの目が。 あの人は、多分私のことを覚えている。屋上で会った時のことを。中庭で私を見つめてきた時、そう感じた。 不思議な人。どこか、変な人。だけど、私にとってはそこらへんの男と変わりない。先生だろうが、和宣だろうが、私の父親と変わりない。みんな男なんて、同じ。自分の欲のためにしか動けない、哀れな生き物。 携帯を握る力が弱まる。意識が遠のいていく。 ベッドに面した窓のカーテンの隙間から、月明かりが差し込む。それが、私の体を照らす。暗闇の部屋に、唯一の光。優しい、光。 私はその光から目を閉じ、完全な暗闇へと堕ちていった。 夢の中では、いつもお母さんが笑っていた。お父さんも笑っていた。お兄ちゃんも笑っていた。私も、一緒に笑っていた。幸せに満ちていた。 夢の中ではそんな気持ちに満たされているのに、いつも目を覚ませば、哀しくて苦しかった。目の奥が熱くなって、息がうまくできなかった。幸せな夢を見ただけなのに。ただ、それだけのことなのに、どうしようもなく、現実が辛く感じる。
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