四隅、四体。

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  「キャアッ!何ですかあなた」 女性の腕を掴み、鏡越しに四方を見る。 涙が出るくらい会いたかった彼らは、今はやはりこの女についているらしい。 激しい怒りが僕を襲う。 「返せよ泥棒!返せ!」 「何なの!?誰か!」 「俺のなんだよ!一二三四を返せよ!あああああ」 気付けば鏡は血濡れになり、足下の血溜まりには女が横たわっていた。 真っ白な檻の中。 閉鎖された部屋の真ん中に正座して、手鏡にズリズリと眼球を擦り付ける男がいる。 看護師は白い目を向けるだけ。 愛おしげに握る手鏡からは肝心要の鏡が外されていた。 いち、に、さん、よん いち、に、さん、よん 男の口から漏れるメトロノームのような絶え間ない呟きだけが、部屋に延々と反響した。  
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