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「おはよう、一、二、三、四。いい天気だな」
あれから五年。
僕は相変わらずあのアパートで暮らしている。
変わった事と言えば、ベッドをリビングのど真ん中に移動させた事だろうか。
だってそうしないと三と四が見えなくなるから。
食事も部屋の真ん中だ。
会社でも上司に頼んで机を移動させてもらった。
それから、鏡を欠かさず持ち歩くようになった。
「妙なモノ」――僕にしか見えないあの四体はあれ以来僕が覗く鏡から消えることなく、晴天の下でも電車の中でも彼女と愛し合っている最中でも、一定の距離を保ち僕を見ている(俯いているから見ているとは言えないが)。
悪い事は一切ない。
四方に彼らがいることに慣れてしまえば寧ろ守り神のように思え、一体でも壁に埋もれて姿が見えない時は不安になり、わざわざ四体が見える位置に移動するのだ。
「一、聞いてくれよ。あの部長、無茶ばっかり言いやがって。二も三も四もそう思うだろ?」
四枚の鏡をテーブルに置き、返事もしない彼ら相手に愚痴を言っては酒を飲む夜を過ごした。
飲むかな、なんて思って部屋の四隅にお猪口を置いたけど、やはり彼らは微動だにしない。
離れないくせに近付こうとしないなんて、どんだけツンデレだよって笑った。
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