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「ごちそうさま」
「友香」
席を立とうとするわたしを陸が名前を呼んで引き止めた。
「なに?」
椅子に座りなおして陸に視線を向けると、陸は切れ長の黒い瞳でわたしを見据えた。
相変わらず、何を考えているのかわからない瞳。
見慣れてしまえば、きっと気付きもしない。
陸は、何かを諦めているのだ。
「あの家を取り戻すのは、難しい」
少しの間の後、陸が申し訳なさそうにそう告げた。
……ああ、そんなこと。
小さく息を吐く。
「いいの。取り戻したって、もう住めないから」
借金の取立てにあっていたのだ。きっと、噂になっていたに違いない。
どれだけ辛い思いをしたのだろう。想像するだけで胸が痛む。
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