第5話

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  ◆◇◆◇ 「今日は和食なのね」 受け取った紙袋からお惣菜を取り出してレンジで温める。 五目御飯と筑前煮、それからほうれん草のおひたしにキンピラごぼう。 そして、陸の好物の鶏のから揚げ。 和食器に移しかえていると、不意に陸がわたしの背後に回りこんできた。 「友香」 耳元で囁かれる言葉に肌がゾワリと粟立った。 「なに?」 振り向きもせず、短く答える。 「どうして、俺と目を合わせない?」 それは……。 「陸の気のせいよ」 密着している陸の身体を押し退けて、ジッと陸の瞳を見据える。 だけど。 わたしの心の奥を覗き込むように、瞬きもせずわたしを見つめ返す陸に、直ぐに居た堪れなくなってしまう。 結局、目を逸らしたのは、わたしの方だった。
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