第6話

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    何か企んでいるの? そう疑わずにはいられなかった。 「…………」 黙っているわたしに「陸に逢いたくない?」と、久保さんは表情も変えずに言う。 「……別に」 「陸に逢いたいから、あの部屋でいつまでも陸を待っている。そうでしょ?」 「違います」 あのマンションに留まっているのは、陸に逢いたいからじゃない。 わたしはもう、家には戻れない。 どこにも行くところがないのだ。 お金が貯まって、一人で暮らしていけるようになるまで。 その間だけ……。 「話はそれだけですか?」 久保さんの返事を待たずに席を立つ。 「失礼します」 そう言ったわたしを久保さんは静かに見詰める。 「気が変わったら、連絡して」 その言葉を背中で聞きながら、わたしはファミレスをあとにした。
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