初心忘れるべからず

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 『初心忘れるべからず』。これは、私がもっとも好きな言葉である。  何年経とうとも、この言葉だけは忘れてはいけない。  私は日々の慣れ合いの中で、緊張というのを忘れがちになる。人間どうしても、緊張が長続きしないのもあるが、やはり適度な緊張を持ち続けることこそが、成功への近道なのだ。  私も社会人になって数年。鏡の前で何度も自分の顔を確認する。髭の剃り残しや歯を磨いたか、顔を洗ったか。もちろん、髪を梳かしたか。常に緊張、初心の心をもって自身を見定めるのだ。 「よし」  鏡で顔を確認するとネクタイを締め上げ、上着を着ると会社に出勤した。  やはり、『初心忘れるべからず』は素晴らしい言葉だ。こうして、心に初心の頃の気持ちを持ち続けるだけで、身が引き締まる思いだ。  これから、社会に出てくるであろう後輩達に社会人として何が大切なのかを教えてやらなくてはならない。それが、先輩としての役目なのだ。  しかし、今日は一段と初心に戻ったような気分だ。そう感じさせるのは、やはり、人の視線だろうか。電車に乗り合わせた人達が、私のことを見ているような気がしてならないのだ。  単なる気のせいのはずなのに、すごく注目されているような気がしてならない。実に懐かしい気分だ。初めて、入社した会社に出勤する時も、こんな気分だった。誰かに見られているはずではないのに、見られているような気がしてすごく恥ずかしい気分になった。  まさに、その時の気持ちか心を揺さぶっていた。それと同時に、私は清々しい気分になる。何年経っても、若い頃の気持ちを忘れずにいることに。この気持ちを忘れなければ、きっと、これからも上手くやっていけるはずだろう。  電車を降り、駅の改札口を出ても人の視線を感じ続けている。良い感じだ。人の視線が新しく、自分の気持ちを初心に戻してくれる。  擦れ違う人、一人一人が私を見ている。そんなことはありえないのだが、擦れ違う一瞬に目線を向けられているように感じる。珍しいモノでも見るかのように。
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