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某駅前通り。
つくつく法師が喧しい、八月の終わり。
地元に帰ったある日。
「──赤又、邦洋さん」
「え、はい?」
名を呼ばれて、俺は振り向いた。
職業柄、街中で声を掛けられる事は珍しくないが。
それが悪意を含んだ声でも珍しくないが。
「あんたの母親って、最低だね?」
嘲りと悪意の込もった声で、すれ違った女が言った。
「…何ですか?」
普通に腹が立つ。
故に、この野郎気分満載で睨み据えたのに。
その女は動じなかった。
「私の母は、あんたの母親に、言われなき侮辱をされたの」
そこまで聞いてから、訳が解らない気にはならなかった。
納得してしまった俺が居る。
俺の母は、そんな人間だからだ。
睨みに動じなかった訳だ。
俺の威嚇など、彼女の思いの前では、蟻にも満たなかったのだ。
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