第1章

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某駅前通り。  つくつく法師が喧しい、八月の終わり。  地元に帰ったある日。 「──赤又、邦洋さん」 「え、はい?」  名を呼ばれて、俺は振り向いた。  職業柄、街中で声を掛けられる事は珍しくないが。  それが悪意を含んだ声でも珍しくないが。 「あんたの母親って、最低だね?」  嘲りと悪意の込もった声で、すれ違った女が言った。 「…何ですか?」  普通に腹が立つ。  故に、この野郎気分満載で睨み据えたのに。  その女は動じなかった。 「私の母は、あんたの母親に、言われなき侮辱をされたの」  そこまで聞いてから、訳が解らない気にはならなかった。  納得してしまった俺が居る。  俺の母は、そんな人間だからだ。  睨みに動じなかった訳だ。  俺の威嚇など、彼女の思いの前では、蟻にも満たなかったのだ。
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