第1章

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 俺のお袋。予てより気にはなっていた。  会えば多分、誰にでも恨まれてしまうだろう。  気付いた事、思った事、感じた事。  そのまんまズバズバ言う人間だからだ。実際ノリは良くて、話も面白い。  だから学生時代は俺の友人にもウケはあった。気っ風が良いと言えば聞こえはいいが、遠慮と配慮がない無作法。  的を射た毒舌が売りだった。そこに悪意はないと、信じたい。  誉め言葉なら問題ないが、お袋の言う「それ」は、大抵が悪口に部類する。  お袋自身が思い感じた、対面したその人柄(ひと)と成りに、間違いないのだ、と言う自信から来るのだと思う。  だが長く聞いていると、段々気分が悪くなる。たまには誉めろよ、と言いたくなる。  しかしウケがいいので、お袋は止めなかった。それどころかそのうち、当人に面と向かって言うようになった。  「陰口は嫌だから」だそうだが、やられた方は、喧嘩を売られたのかと思うだろう。  相手を選べよ、お袋。  「そんな事を言える」相手の、見極めを忘れた、お袋。  誰にでも言いたい放題で、どんどん嫌われていく、お袋。  それに気が付かない、お袋。  俺はそんなお袋を、反面教師にしたのだ。 「あんな母親から、こんな好い息子が」と、言われたいが為に。
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