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その顔は、しばらく見ない顔だったが知っている人物だった。
男は、向井真(むかいまこと)さん。
レーナの同僚で、セフレの彼だ。
腰に巻いたタオルをおもむろに彼は直しながら、
バツが悪そうな苦笑いを浮かべている。
かき上げるウエーブの髪はしっとりと濡れていた。
「あ、ごめん。向井は気にしないで、上がって」
そうレーナは屈託なく笑って言ったが、
私は招かれざる客であることは明白だった。
室内の暖かさで雪が溶け、肩を湿らす。
ずんと沈み込む感情が
圧し掛かったコートが私を外へと引っ張り出す。
「大したことじゃないから、また今度にするね」
私は踵を返し、ドアノブを掴んだ。
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