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やはりレーナの言った通りに、自分の気持ちを言うのは、難しいようだ。
彼の仕事を応援できる女にはなれない。
彼に我儘をぶつけても、苦しませるだけだ。
彼の嬉しい気持ちや、決断を私は鈍らせちゃいけない。
こんなことで、感情を高ぶらせて、
彼への苛立ちを、どうにか吹き消せないのは、
簡単に感情をぶつけあえる距離にいないからだろうか。
黒くモヤモヤしたものを押さえつけて、
テーブルの端に放り投げたままのフランス語入門を、モニターに映した。
「そうだ、フランス語勉強始めたんだよ!
女性名詞と男性名詞のとこ、
今やってるんだけど意外と分かり易いね!フランス語!」
ドンと置いたA4サイズのテキストに、
「へえ、舞が語学勉強ね。やるじゃん」
「リヨンに行くまでに
少しでもわかるようにならなくちゃ」
そういった私に
嬉しそうな彼の声が響いた。
残念だったけれども
彼の楽しげな表情は、空色のテキストに隠れて見えなかった。
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