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珍しく寒い夜だった。
ぼんやりとしていたのは、鉛色の雨で景色が霞んでいたせいだろう。
そして、彼氏の告白に胸打たれたせいだ。
だから、部屋に電気が付いていることにも、
家の扉を開けたとき、鍵が開いていることにも、気づかなかった。
部屋の中にいる男の姿が、誰なのか気づくまでのスピードは、
扉がゆっくりと締まる時間と同じだった。
目の前で私を見つめて微笑む男は、
愛おしい彼と同じように私の名前を呼ぶ男。
阿部さんだ。
「...舞」
「阿部さん...なんで...部屋に?」
驚きと困惑のせいで体が動かない。
恐怖が近づいてくる。
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